ホストクラブで危うく心をぼったくられかけた話

 某日、ふとホストクラブに行きたくなった。みなさんご存じのあのホストクラブである。一度行けば泥沼にハマるとされるホストクラブである。ホストなんて、ホス狂とかドンペリシャンパン要求されるとか、そういうイメージしかない。「もう少しよしこちゃんがお金出してくれたら一緒に暮らせるんだけどな……」「俺もお金貯めないとだからさ(夢のために)、まだお店やめられないんだよね。(だからよしこちゃんとはまだお付き合いできないごめんね的な表情)」とか言って金を搾り取っていくイメージしかない。ごめんねホスト、行ったこともないのに。さて、ホストに行くにあたって私が一番心配したのはもちろん金銭面である。金を搾り取っていくイメージしかないホスト、そりゃ一番の懸念材料はお金になるわ。ネットで探すよりも、行ったことがある人に聞くほうが信頼できる。そう思った私は、身の回りで唯一ホストに行ってそうな先輩にLINEを送った。

 結論から言うと先輩は別にホストクラブに行ったことはなかった。とんだ濡れ衣である。申し訳なさすぎる。かくして、私は先輩と共に祇園のホストクラブへ向かうことになったのであった。ちなみに、この先輩と二人きりで会うのはこれが最初であった。さてどこのホストクラブにしようか、といろいろサイトを見てみると、たいていどこのホストクラブも初回のお客は飲み放題1時間1000円、とかで入れるみたいだった。いやいやでもあのホストクラブだぞ?ぼったくられるに決まってる。謎に高いお通しを出されるとか、TAXがやたら高いとか、ホストたちの分のお酒代を払わなくちゃいけないとか、なにかあるはずだ。私はめちゃくちゃ疑り深かったし、ホストには緑色の血が流れていると思っている女だった。細心の注意を払ってお店を選んだのだが、なんとそこの店、つぶれていた。いやあ、やはりホスト界隈もなかなか厳しい経済状況を強いられているのだろうな、うんうん。次に向かったホストクラブはなんとその日に限って三人しか在籍していなかった。しかもお客さんいなかった。

 「普段はもっといるんですけどね~、今日だけ3人で」

 「もっとカッコいい人沢山いるんですよ、いつもは。まあ一番カッコいいのは俺だけどね!」

 「今ならこの三人を二人占めできますよ☆」

 すげえ、ホストすげえ。何がすごいって、今日は三人しかいないという情報しか出していないのに、随所でしっかりアピールしてくるところがすごい。しかもめっちゃイケメンだった。とりあえず一旦外に出たものの、思い出してみてもめちゃくちゃかっこよかった。先輩は「なんか年近い男の人三人と飲んでいてもただの飲み会みたいだ」と言っていた。確かに。とりあえず次のお店へ向かった。次のお店は営業日で営業時間なはずなのにドアが開かなかった。無念を抱えて次のお店へ行くと、ドアは開いていたものの準備中だった。頼むからネットに営業時間を書いてくれ。

 やっとの思いで営業していてそこそこ人数もいるホストクラブにたどり着いた。若いお兄さんが丁寧かつ優しく出迎えてくれる。

 「初めてですか?ちょっと身分証確認させてください……えーっとこれどこ見ればいいんですかね」

 おっ、慣れてない感じなのが可愛いですね。私はなんか焦って三回くらいスマホを落としてしまった。そしたら若いお兄さん、「めっちゃ落とすやんw」って、なんだお前いきなりフランクになってくるやん。ホストかよ。ホストか。席に案内されて、いきなりフランクになる系お兄さんがお店の説明をしてくれた。最初、ホストが10分くらいずつ交代して席についてくれる。1000円で飲み放題だから好きなだけ飲んでくれていい。ホストの分は一杯1000円くらいで払うことになるけど、初回はホストの方も長く席にいるわけじゃないから頼まなくていい……とのこと。「お姫様たちが気に入った人を最後に指名してください。そこから延長することもできます」この人いまお姫様って言ったよ。お姫様って言ったよ。私はどこの国のお姫様なんですかね!

 最初に席に来てくれたのは私と同い年のお兄さんだった。最初に名刺を渡される。新人さんらしく、とてもとても初々しい。可愛い。緊張してるのかな。黒髪で目が大きくて、ちょっと色白で、ずっと不安そうに目をきょろきょろさせている人。彼は学生さんで、ちょっと「いやいや僕なんて陰キャなんで!」みたいなスタンスの人だった。マジでこれ母性くすぐってくるやつだ。頑張ってほしい。好きなタイプとか出身とか聞かれて、気がつけばもう時間になって、「よかったらまた指名してください」という言葉と共に彼はいってしまった。うーん、名残惜しい。可愛い。

 二人目は、さっきのいきなりフランクになる系お兄さん。ちょっと古着系男子っぽい雰囲気。「話すのが好きで」と語る彼は確かにめちゃくちゃお喋りだった。「すごい喋りやすいので嬉しいです」と持ち上げてリップサービスもしてくれた。(リップサービスって言い方よくないわね) 仕事の愚痴なんかもちょっと挟んでくれたりして親しみやすさを感じさせるのが上手い。あとお酒に詳しい。いいね、お酒に詳しい男、いいね。入って半年も経ってないとは思えないですお兄さん。

 次にやってきたのは「これだよこれぇ!」みたいなホストだった。ノリも見た目もホストのそれ。テンションぶちあがる。そもそも名刺の渡し方からしてやばかった。仕草がいちいちホストだった。お代わり何にしますか?って言われて焦ってそんなに飲みたくもない中二病みたいな名前のドリンクを頼んでしまった。さっきのいきなりフランクになる男が「トマトジュースで口に合わないかもしれないので、その時は言ってください、作り直すので」と声をかけてくれた。たしかにめちゃくちゃ口に合わなかったので呼吸を止めて一気飲みした。 「好きなタイプとかもう聞かれた?聞かれたでしょ。あいつらね、俺の真似してんのよ」 あーっ!そうそうそういうの欲しかった!メイクとかもちゃんとホスト、プロだねえ。立ち去り際に「俺も学生なんだよね」と言い残していったのがめちゃくちゃ気になってしまった。お前も学生なんかい!!あれが学校で授業受けてる姿を想像できなかった。  

 四人目はあとで調べたらお店で人気ナンバー3の人だった。うん、わかる、めっちゃわかる。あれは人気だと思う。爽やかイケメン。笑顔がまじで可愛い、キラースマイル。ちょうどいいくらいにこっちをからかってきたり、程よく自虐も混ぜてきてて、いきなり小声になってここだけの話だよみたいな雰囲気を出してきたり、苦労してる様子も垣間見えて、かといって卑屈でもなく、友達少なくってみたいな寂しげな感じを出してきて、聞き上手かつ話し上手、えっお前はモテ男バリューセットか?よく10分そこらで自分の能力を遺憾なく発揮できるな、その力をわたしの就活の時とかに分けてくれないかな。お酒全然詳しくないのも可愛かったです。   

 五人目のお兄さんも苦労してる感じの人で、社会人経験があるらしかった。溝端淳平とかDAIGOに似てる優しいイケメン。格闘技を元々やってて、ジムのお金を貯めるためにホストで働いているんだと。えーーっ、貢ぎたくなるやつ〜〜!ちょっとスマートすぎない感じがとても可愛かった。名刺がなぜか一人だけ手書きなのも萌えポイントだった。  

 最後にスタッフの人が来て、誰を指名するか尋ねてきた。ここでする指定はどうやら「送り指名」というらしく、指名した人が出口まで送ってくれるらしい。(あとで調べた)私はもう少し話してみたいと思ったフランク男、先輩は三人目のモテ男バリューセットを指名した。「送り指名、久々にもらえて嬉しい」と語るフランク男。かわいい。さらにフランク男がここで仕掛けてくる。 「さっきの飲み物大丈夫だった?甘いのが好きって言ってたから、作りながらこれ絶対まずいだろって思ってたんだよね」  あーーーーーーーー好き。これは好き。いろいろ好き。これは卑怯だろ。しかしこんなので陥落するような女じゃないのでそこのところは分かって欲しい。 モテ男バリューセットもやってきて、私と先輩、フランク男、モテ男バリューセットの4人で話したんだけどこれがまたよかった。目の前で繰り広げられる男2人の掛け合いが良い。腐女子時代の私が蘇りそうになった。危ない危ない。お酒に詳しい後輩とお酒を全然知らない先輩のカップリング、控えめに言って最高だった。カップリングとか言っちゃったよ、落ち着け私。最後にそしてLINEを交換。えっ!?いいんですか!?LINEを!?モテ男バリューセットは私の先輩に「交換は担当とだけだよ!」みたいなことをおどけて言ってる。担当って、響きがよすぎん???LINE交換したあと、スタッフさんが延長希望するかを尋ねてきて、私たちは時間もお金もそんなになかったのでお店を後にした。フランク男とモテ男バリューセットは私たちをエレベーターの前まで送ってくれて、とっても優しかった。でも彼らはさすがにエレベーターのボタンを押すことまではしてくれなくて、そこはミュゼの店員の方が優しいかなと思った。お店を出てちょっと歩いたくらいに指名したフランク男からLINEが来た。まじでタイミングがいい。世の中の男はデートの後はこのくらいのタイミングでLINEを送るべき。間違っても1時間とかあけるんじゃない。私もLINEをすぐに返信してホクホクしていた。幸せだ、例えまやかしでも男にチヤホヤされて幸せだ、これは通うし貢ぐわ。わかる。

 ただそう思えたのもフランク男からインスタよかったらフォローして!と言われるまでの間だった。フランク男は超絶おしゃれなインスタをやっていた。身近にいたら「おしゃれだなぁ」って敬遠するタイプの投稿。センスがめちゃくちゃあって、どこか芸術家気質な感じ。正直わりと好きだけど、私が彼に求めていたものとは違った。最低なことを言うようだけれど、私が「ホスト」に求めていたのは人間味とか個性じゃなくて、どれだけ自分を満たしてくれるかだった。人間味とか個性とか、そういうのは身近な人間で事足りていてる。わざわざホストに求めるものではない。私が身近で得ることが出来ない異常なまでの持ち上げとか、いつまでも好意的な眼差しとか、そういうのを、私はホストに求めていたんだなと気付いた。なんというか、夜の仕事をやる上でのヒントをここで見つけたり、っていう気分だった。何を言ってるんだ私は?

 かくして、私はすんでのところでホストにはハマらなかった。そもそもハマるようなお金もなかった。