「ビジネスに興味ありませんか?」に乗っかってみた話

 この間、「ねぇ聞いて、こんなことがあったんだけど…」と話し出そうとしたら「いや、ブログで見るから別に言わなくていいよ」と言われて悲しくなりました。ブログやめようかなと思った瞬間でしたね。

 

 最近Twitterやインスタでビジネスアカウントめちゃくちゃ見かけません?「月収〇〇万円稼ぎたくないですか?」「10代や20代の若者が中心に活躍しています!」明らかに怪しい。誰がこんな実態不明のビジネスに乗っかるんだ。宣伝下手か。本当に稼げるとしてもこんな宣伝下手な人たちと一緒に活動したくない、アホがうつる。めちゃくちゃ失礼なこと言ってますね私。で、大概彼らはDM送って無視されてるか、遊ばれて晒されてる。なんでやり方変えないんだろう?普通に不気味じゃないですか?そう思った私はなんかもう失うもんとかねえよな、と意気込んで、ビジネス垢の方々の話にとことんまで乗っかっていくことを決めました。

 候補になるビジネス垢の人間はめちゃくちゃ多かったのですが、私はとりあえず四人の人とコンタクトを取りました。一人目はどうやら20歳以上の方限定のビジネスを展開していたらしく頓挫。3月で20歳になります!という大ウソをなぜか(本当になぜか)ついてしまったせいで、最近になって「そろそろ20歳ですよね?ビジネスどうですか?」みたいなLINEが来てウケました。

 二人目は電話会談まで持ち込みました。ただこの人はビジネス垢として、というよりもそもそも人間としての信憑性がめちゃくちゃ薄い男だった。まずLINEを交換したんだけど、(なぜか頑なにTwitterのDMではビジネスの説明をしたがらないのがビジネス垢の共通項である)LINEのプロフィール画像がひどかった。ポカホンタスみたいな女の人とならんでいる写真なんだけど、グレーの半袖Tシャツをきていて、乳首が浮いてる。めちゃくちゃ乳首が浮いてる。別にこいつが常日頃から乳首を浮かせている男であったとて私には何ら損害はないのだが、なぜ乳首が浮いている写真をプロフィール画像に設定したのだろう?気づかなかったのだろうか。乳首を浮かせて許されるのはハリウッド女優と犬だけだ。とにもかくにも私はこの人と電話をした。昼休み終了間際の時間にさばいた。ちょっと講義に遅刻したけれど、貴重な体験のためなら単位なぞいくらでもくれてやる。彼はつまらない自己紹介から始め、(つまらなすぎて何も覚えていない)彼自身や彼のやっているビジネスについての魅力のアピールが全くの不十分なまま「本気で稼ぎたい人だけを探している、ぜひ直接会って話を聞いてもらいたい。今月で募集はやめようと思っているから、チャンスは今しかない」とのたまった。しかも私が京都在住であることを知りながら梅田のカフェを場所として提案してくるゴミっぷりである。本気でやってるならとんでもないアホだ。何も実態が分からない上に魅力もないビジネスのために誰が交通費往復800円をかけて大阪まで行くというのだろうか?今しかない、ということを押し出してくる点は評価に値するにしても、到底やる気があるとは思えない。私が熱心なふりをして「ぜひお話うかがいたいです!」というと「カフェの場所決まったらまた連絡します!」と彼は言った。なんだかんだで会えるのを楽しみにしていたのだが、結局彼から連絡が来ることは無かった。なぜ私が振られた気持ちにならなくてはいけないのだろう。

 失意の中、私がコンタクトを取った三人目はブロガーの女性だった。「ブログで稼ぐことに興味ありませんか?」という彼女。正直興味自体はまあまああったので「興味あります!」と私が返事をすると、これまたLINEを交換して電話することになった。この女性は二人目と同様に「時間がない、今しか紹介できない」ということを強調し、やはり二人目と同様に梅田のカフェを指定してきた。このやり口流行ってんのかな~と思いながら、とりあえず約束は取り付けたものの、まあこれもどうせまたダメだろうなと諦めていた。しかし約束の日の前日、彼女から「このカフェでお願いします!」ときちんと連絡が来てしまった。行くつもりが全然なかった私は動揺しながら「ごめんなさい、親が危篤で実家に帰らなくちゃいけなくなって……」とこれまたとんでもない嘘をついた。勝手に親を危篤にするの本当に良くないと思う。

 四人目がなかなかに面倒くさかったんだけれど、正直一番収穫はあった。まず最初に電話でやりとりをした男の子をSさんとしますね。Sはなんと驚いたことに同い年。大学には行っていないようだった。Sはめちゃくちゃ気さくで、パリピグループの子犬キャラみたいな男だった。絶対河川敷でバーベキューやってるし、買い出しとか率先して行っちゃうタイプ。私が一番嫌いな人種だ。そんなSは持ち前の明るさで(私がSの何を知っとるんじゃという話なのだが)自己紹介をし、私にも自己紹介をするように求めた。そして私の話を最初から最後まで傾聴し、めちゃくちゃに褒めてきた。「よしこさんはすごく話しやすいし、考え方もしっかりなさっててすごいです!」あ~~~~~~~~こういう感じで付け入ってくるやつね~~~~~~~~。しっっかりと私を褒めた後、Sは軽く自分のビジネスの紹介をした。といっても本当に軽く、といった感じで自分がなぜこのビジネスを始めたか、ということを自らの夢や目標を交えながら語ってくれた。そしてSは「これを始めて本当に尊敬できる人と出会えた よしこさんも是非その人と話してほしい」というようなことを私に言った。Sはここで「あなただから」その人と話してほしい、「あなただから」一緒にビジネスをしたいということを強く強調した。誰にでも言うわけじゃない、ここでこんな風に答えた人は誘わなかった、というような。なるほど、この方しっかり勉強なさってますね、人の心理みたいなものを。パリピのSにそんなこと言われて正直悪い気はしない。私は二つ返事でOKしたのだった。Sが尊敬している人、とやらを話すまでには2,3日の間があって、その間にSは細かに連絡を取ってきた。「今日お時間ありますか?」と言って電話してきた日は全くビジネスとは関係ない雑談を15分ほどしてきて、どうでもいい男に時間を費やしたくない私は心底イライラしたのだが、多分これなんていうか親しみを持たせるための作戦だったんだろうな。そうしてやってきた勝負の日。空きコマ二つ分を使い、サークルのBOXで私は彼らと電話をしたのだった。

 Sが尊敬しているらしい男(Tとする)は、正直あまり良い印象は無かった。なんか高圧的で、早口で、典型的な「仕事できる『風』の男」みたいな感じだった。Sが積み上げた土壌をこいつが割と台無しにしている感じの印象を受けた。話す順番間違えてねえか?なんでSはこいつを尊敬しているんだ?Tは軽く私のバックグラウンドを聞いた後、自分の話を始めた。実家暮らしのため、通学に長い時間を費やしておりバイトが碌にできなかったこと、片親で生活が厳しいため奨学金を借りていること、サークルにも入れていないこと……などなど苦労人要素が勢ぞろいしている方だった。彼はそれでなんとか稼げる手段としてこのビジネスに行きついたらしい。長々一時間ほどTは自分の話をしていた。長い。本当に長い。やっとこのビジネスがどんなものか、という話を始めた時には私はすっかり飽きていて、小説家になろうというサイトで「悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される」という転生ものの小説を熟読していた。

 Tが言うには、彼らがやっているビジネスは要するにただのアフェリエイトだった。今も昔も人気ですね、アフェリエイト。私が小学校の時からすでに横行していましたね。アメブロでよく見ました。Tは「企業が収入を得る方法は二つあって、シンプルに売り上げを伸ばすことと、事業を拡大することなんだよね。これも同じで、よしこさんがやってくれるってなると、要するによしこさんが支店になるわけ。それでよしこさんがそこで得た収入は僕らの収入にもなる。コンビニとかもそうでしょ?」すげえ、要するにねずみ講じゃん。ねずみ講ってこんな上手い言い方出来るんだ。言葉ってすごいな。彼らは主に旅行会社(それもよく分からん海外企業で、まだ日本に進出していなくて、認知度は低いからやるなら「今」らしい。時間は限られているんだとか)の広告を出して収入を得ているんだと。彼らが実際に旅行して、その旅行の様子を広告として使う。だから、楽しみながらお金を稼げる!みたいなのが彼らの言い分。しかし、タダで旅行に行ける、なんてことは全く言っていないので(もしそうだったら前面に押し出してアピールするだろう)旅行はおそらく自腹になるだろう。そのうえTはこういった。「僕の両親も海外旅行とか好きで、よく二人で行ってるんですよね」おい、待てよお前さっき片親って言ったよな。なんで両親が一緒に旅行に行ってるんだよ、円満じゃねえか。すっかり信用がなくなり始めたところでTは「費用」の話を持ち出した。「ちなみになんですけど、一応講習会の費用と入会費で10万円ほどいただいています。でもこれってすごく破格で、めちゃくちゃ安いほうなんですよ。僕もいろいろなビジネスやったんですけど、高くて100万円とかかかるところがあって、結構借金とかしたんですよね。でも、ここなら……」片親でお金がないのに100万円のビジネスやる人とかめちゃくちゃ関わりたくないんですけど。勘弁してくれよ。人間性に問題あるだろそれ。さらにTは続けた。「このビジネスは最初は月三万円は確実に稼げます。それからちょっとずつレベルアップしていって最終的には月七桁稼ぐこともできます。Sくんは実際あと少しで七桁突破する目途が立っています」どういう仕組みで広告収入で個人に七桁入ってくるんだろう。私がめちゃくちゃ無知なだけかもしれないんだけど、一つの企業をPRするだけなのにたった一人に七桁もの収入が入ってくるってよくわからない。広告にそんな費用かけられるってめちゃくちゃに大企業じゃん。しかもその企業はまだ日本には進出してないっていうじゃん。ホームページ見たけどホームページに金かけてなさそうだし、怪しさしかないじゃん。っていうかそもそも私は10万円もなかったので、丁重にお断りしました。そのあともう少し値段の低いプランも紹介されたけど、「あ、これいわゆるドアインザフェイスだな」と思ってやっぱり断りました。急に態度が悪くなって一瞬で電話ぶち切られたので悲しくなっちゃいましたね。二時間も話したのに。Tは態度が悪いからどうでもいいけど、嘘でも愛想よくしてくれたSには申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

 

四人目のSとTに関しては、本当にちゃんと何かのビジネスをやっているんだな、というのを感じたんですけど、結局SNSに横行するビジネスアカウントのやつらが何者なのか、ってはっきり分からなかったです。どうしてみんな大体同じような文面でDMを送ってきて、同じような手口なんでしょう?ああいう人たちもきっと生身の人間で、それぞれ考えを持ってああいうことをやっているんだろうし、すごい気になるんですよね。今回電話で聞いたような建て前じゃなくて本音の部分が。多分それって本当に内部に入ってみないと分からないんだろうけど、そもそもそんなお金もないし、引き込まれたら怖すぎるし。

 

そもそも、もっとうまいやり方あるでしょ。四人目のSとTはすっごく惜しかった。公衆みたいなのがしっかり行われているんだろうなって思いました。なんか私もやってみようかな、稼げるとホラを吹く謎のアカウント。